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今週は、任意積立金の存在意義について考えてみましょう。

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任意積立金ってなんのためにある?

資産や負債の増減取引と比べ、純資産の各項目の増減、
とくに「利益剰余金」に区分される“〇〇積立金”を
積み立てたり、取り崩したり、というのは
実態をイメージすることが難しくて困ります。

積立の際も、取崩の際も、相手科目は
必ず“繰越利益剰余金”勘定です。
ものがまったく動かないため、いまいちよくイメージが掴めません。

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そんなもやもやの解決にお役立ちできれば幸いです。

任意積立金の積立

任意積立金を積み立てることには、どのような意味があるのでしょうか?

任意積立金を積み立てると、貸借対照表はこのように変化します。

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このことが持つ意味とはなんでしょうか?

それは、配当財源からの脱出です。

繰越利益剰余金は、過去から現在までに蓄積された利益のうち、
未だ配当等の流出が行われていないものを指します。

通常、株式会社から株主(オーナー)への配当は
この繰越利益剰余金の範囲内で行われます。

任意積立金を積み立てることで、繰越利益剰余金から
“〇〇積立金”に金額が振り替わり、配当等の財源を
減らす狙いがあります。

ただし、これによって会社の財産の一部がどこかに隠されたりと
いうような財産状態の変化が生じるわけではありません。

繰越利益剰余金の任意積立金も、利益の蓄積である
「その他利益剰余金」であることに変わりはありません。

では、両者の違いは一体なんでしょうか?

それは、「株主との約束」です。

株式会社は、利益が出れば、当然オーナーである株主に
配当として還元します。

しかし、毎年毎年、稼いだお金をめいっぱい株主に配当として
還元すると、いつまでたってもお金が貯まりません。

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たとえば、いつかは自社ビルを建てようと思っていても、
めいっぱい出し続けていたら、その財源が貯まりません。

そこで、株主に提案します。

「わが社の安定的、かつ、発展的な経営に本社ビルは必要です。
つきましては、毎年の利益の一部を配当に回さずに社内にプールして
本社ビル建設の財源に充てさせていただきたい。
いかがでしょうか?」

これに対して株主が

「わかりました。そういうことなら、利益の一部は
社内にプールしてもらってけっこうです」

こうして、本来配当に回すべき財源の一部を
社内にプールすることとなります。

となれば、その話し合いの記録をしなければなりません。

そのプールする金額を繰越利益剰余金のまま放置しておくと、
新しく株主になった人はその貯まった金額をみて
「配当を出すように」主張する可能性があります。

そこで、繰越利益剰余金のまま置いておかずに
別の科目に振り替える必要があり、その科目が
“〇〇積立金”(この場合は新築積立金)です。

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つまり、こういったやりとりの経緯を示すものとして、
任意積立金を積み立てるのです。

ですから、任意積立金の積立は、株主総会の決議事項となっています。

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つまり、こういうことになります。

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任意積立金の取崩

一方で、任意積立金の取崩しについてはどうでしょうか?

任意積立金を取り崩すと、貸借対照表はこのように変化します。

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このことが持つ意味とはなんでしょうか?

それは、配当財源への帰還です。

例えば、ある目的達成のためにプールされた利益について、
その目的が達成できた場合には、もう利益の使途を拘束する
必要はありませんので、元の科目に戻してあげます。

この場合、もともと株主総会で承認を受けていた目的どおりに
使ったわけですから、株主総会の決議は不要です。

しかし、ある目的達成のためにプールされた利益について、
その目的を達成するためでなく、(計画断念や、配当財源の
補てんなどの)別の目的で繰越利益剰余金に戻すこともあります。

この場合は、もともと株主総会で承認を受けていた目的とは
別の目的で使用することになりますので、その取崩について
あらためて株主総会で承認を受ける必要があります。
したがって、目的外取崩しは、株主総会の決議事項です。

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具体的には、次のようになります。

<目的取崩し>

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<目的外取崩し>

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当期に十分な利益を稼げていない場合には配当をゼロにするか、
過去の利益を源泉として配当を出すことになります。

前者であれば、経営者はゼロ配当の通知をした時点で
株主から厳しい評価を受けます。

後者の場合において、もし任意積立金を取り崩して
配当の財源にしようとする場合には、
株主総会の決議を受ける必要があります。
ここで、その経営責任について追及されることになります。

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まとめ

任意積立金をなぜ積み立てるのか?

その意図は二つあります。

一つは、その使い途を明確に記録すること、です。

そして、もう一つは、利益の使い途を明確に記録することで、
毎年の経営者の経営責任を明らかにすること、です。

このように考えれば、両者ともに理論上の留保利益であり、
会社法上の分配可能原資である「その他利益剰余金」で
あるにもかかわらず、わざわざ株主総会の決議を経て
科目の振り替えを行う意味が見えてくるのではないでしょうか。

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【編集後記】

夏休み計画を練っています。
リスクとの調整が難しい・・・。

【昨日の一日一新】

バックハンド オープンフェイス

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❐石田修朗税理士事務所HP

石田修朗税理士事務所 |姫路|

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石田 修朗

1976年生まれ。B型。姫路出身。 (雇わず、雇われずの)“ひとり税理士”として活動中。テニスとカレーを愛する、二児の父です。経営者の不安を安心に変えることにこだわっており、脱力することと手を抜くことのちがいを意識しています。